HUMIプロジェクトについて
HUMIプロジェクト発足の趣旨
HUMIプロジェクトの「HUMI(HUmanities Media Interface)」は「人文科学研究における新しい情報伝達手段の導入」を意味します。デジタル技術を積極的に導入することによって、新しい研究方法や研究分野を開拓することを目標として1996年の春に発足しました。「HUMI(ふみ)」という言葉には日本語の「文、史、典」などの連想が働いています。文学部のスタッフが中心となって稀覯書(歴史的価値のある古い書物)のデジタル化と研究を行うほか、理工学部のスタッフによる画像処理技術の研究や、非破壊検査技術を用いた古い書物の分析、あるいは、環境情報学部や法学部のスタッフによる情報マネジメント手法の研究、デジタル・データの知的財産権問題の研究など、多角的な研究が行われています。
稀覯書のデジタル化
HUMIプロジェクトの活動の中心は慶應義塾が所蔵する稀覯書のデジタル画像データの制作です。プロジェクト発足のきっかけとなったのは1996年春の慶應義塾によるグーテンベルク42行聖書(1445年頃、ドイツ・マインツ)の収蔵ですが、これをデジタル化して研究利用しやすくするとともに、慶應義塾図書館が所蔵する和洋のさまざまな稀覯書コレクションのデジタル化と研究を進めています。歴史的な価値を持つ古い書物は破損の危険性が大きく、後世への継承ということを考えると、なかなか自由に研究することが難しいのですが、高精細のデジタル画像を制作することによって、新しい研究の可能性を開くことができます。
デジタル化手法の研究
HUMIプロジェクトでは発足以来、古い書物のデジタル画像を制作する手法について研究を重ねています。書物を傷つけることなく、そしてまた、湾曲したページ面をなるべく平面に近づけて入力するためには、さまざまな工夫が必要となってきます。蓄積されていく高精細画像の膨大なデータを処理し、安全に保存し、高速に閲覧利用できるようにするための情報処理・伝達方法の研究も欠かすことができません。HUMIプロジェクトにおいてこれらの技術の開発は、実際に古い書物を扱い研究するスタッフと、情報処理技術の研究者、フォトグラファーなどの協力によって進められています。
海外図書館との協力関係
そのような共同作業のひとつの成果がイギリス・ケンブリッジ大学図書館におけるグーテンベルク聖書のデジタル化です。グーテンベルク聖書は全世界に48セット(上下2巻本)現存していますが、それらを画像上で比較研究するために、海外でのデジタル化計画がスタートしました。
1998年11月、ケンブリッジ大学図書館の厚意により聖書と館内の撮影場所が提供され、HUMIプロジェクトは約10名のチームを派遣しました。NTT未来ねっと研究所から高速・高精細SHD(Super-High-Definition)デジタルカメラの提供を受け、チームは4日間でグーテンベルク聖書上下2巻約1,300ページのデジタル化に成功しました。このチームの中には文学部・理工学部スタッフのほかにNTT研究員の石丸勝洋氏、プロ・フォトグラファーの西松克洋氏が加わりました。
このときに制作された画像は、デジタル比較研究の資料としてHUMIプロジェクトの研究者に活用されているほかに、インターネットを通じてケンブリッジ大学図書館と慶應義塾内部で高精細画像を閲覧することができます。
海外におけるグーテンベルク聖書のデジタル化はHUMIプロジェクトの中心的な活動に位置づけられ、既に1999年11月にはドイツ・マインツのグーテンベルク博物館の一セット半、2000年3月にはイギリスの大英図書館の二セットを、共同作業によるデジタル化を終了しました。このほかにも、グーテンベルク聖書を所蔵する数多くの欧米各国図書館との情報交換を重ねており、2000年にはマインツにおいて開催されたSHARP(Society
for the History of Authorship, Reading and Publishing)国際学会において、大英図書館との共同デモンストレーションを行いました。なおHUMIプロジェクトによるデジタル化技術を応用した書物史研究の可能性については、1999年にイギリスの専門誌「The
Book Collector」(vol.48, no.2, p.264)でもとりあげられました。
2000年はグーテンベルク生誕600年を迎えて各地で祝賀行事が行われました。HUMIプロジェクトは9月に始まった大英図書館の特別展示に、グーテンベルク聖書のデジタル画像プログラムを提供、4ヶ月にわたってモニター展示を行いました。また、12月に大英図書館が主催した「インキュナビュラと読者」と題するシンポジウムでは、2名のメンバーが研究発表を行って、好評を得ました。
画像データベースの構築
グーテンベルク聖書に加えて、慶應義塾が所蔵する西洋および日本の稀覯書画像のデータベース化が着実に進められています。西洋の稀覯書としては、中世英語による宗教書「ホプトン・ホール写本」、15世紀の「ルーアン時祷書」、ルネサンス以前最大の百科全書である「知識の鑑」(Vincent
de Beauvais)の1477年版印刷本、16世紀スイスの自然科学者コンラート・ゲスナーによる博物誌、イタリアのチェザーレ・リーパの寓意図説「イコノロギア」(1624-25年)、西洋写本・印刷本零葉集などがすでにデジタル化されています。日本の稀覯書としては、情報処理振興協会のパイロット電子図書館プロジェクトに協力して、奈良絵本(「阿弥陀の本地」「鳥歌合絵巻」「土蜘蛛」「扇合物語」)、浮世絵・明治錦絵コレクション、近世庶民生活画像データベースなどがインターネット上で公開されています。
デジタル・アーカイヴィングと研究環境
HUMIプロジェクトはデジタル画像のアーカイヴィング(蓄積)とデータベース化を人文科学における研究情報生産環境の構築という観点から進めています。ある特定の人文科学上のトピックに関心を持つ研究者が、自分自身の研究を進める上で最も効率的な情報マネジメントの方法を設計し、それを実現するデジタル技術を導入します。そして、そのような研究環境から研究成果を世界に向けて発信することで、21世紀における学術情報センターとしての大学の役割を確立することを目指しています。
国際的なネットワーク
HUMIプロジェクトは現在、大英図書館、ケンブリッジ大学コーパス・クリスティ・コレッジ、グラスゴー大学などと、中世写本や初期印刷本のデジタル化に関する共同研究計画を推進しています。また、マインツのヨハン・グーテンベルク大学からインターン学生を受け入れています。同時にレスターのデモンフォート大学「カンタベリー物語プロジェクト」チームとの間で若手研究員の交換計画もあります。ポーランドのペルプリン教区図書館からは、そこが所蔵するグーテンベルク聖書のデジタル化の要請が来ています。
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